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心の健康づくり計画は義務か。何を書くか
策定そのものは努力義務です。ただし、衛生委員会で調査審議することは規則の付議事項に挙げられています。
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「心の健康づくり計画をつくってください」と言われて、何のことか分からない。産業保健のご相談のなかで、たびたび出てくる場面です。ストレスチェックは毎年実施しているのに、この計画は無い、という会社も珍しくありません。
名前が大きいわりに、書く中身は決まっています。義務なのか、何を書くのか、どうつくるのか、つくると何が変わるのか。順に整理します。
計画をつくること自体は努力義務です。ただし、その対策の樹立は、衛生委員会の付議事項として規則に挙げられています。
義務なのか
計画を策定すること自体は、義務ではありません。もとになっているのは労働安全衛生法第69条第1項で、「労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努めなければならない」と定められています。努めなければならない、つまり努力義務です。
心の健康づくり計画は、この措置を進めるための指針のなかで、策定することが必要とされているものです。指針の名前は「労働者の心の健康の保持増進のための指針」で、同法第70条の2第1項にもとづいて示されています。
ただ、話はここで終わりません。衛生委員会がある事業場では、この計画は委員会の議題として規則に書かれています。労働安全衛生規則第22条は、衛生委員会の付議事項に「労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること」を挙げています。
さらに行政の通達では、この「樹立に関すること」に何が含まれるかが示されています。メンタルヘルス対策の実施計画の策定、実施体制の整備、精神的健康の状況を把握したことによる不利益な取扱いの防止、健康情報の保護、従業員への周知の5つです。
つまり、計画をつくるかどうかは努力義務でも、その話を衛生委員会で調査審議することは、規則が定めた付議事項です。委員会を設けている会社では、実務上は避けて通れません。
衛生委員会の設置が義務づけられるのは、常時50人以上の事業場です。委員会を設けていない事業場でも、関係する従業員の意見を聴く機会を設けることとされています。
計画に書く7つのこと
指針は、計画に盛り込む事項を7つ挙げています。この枠に沿って書けば、抜けは出ません。
事業者が推進する旨の表明
会社として取り組むことを、経営者の言葉で書きます。ここが無いと、あとの項目が担当者の作業になり、社内で動きません。指針も、事業者自ら表明することが望まれるとしています。
心の健康づくりの体制の整備
従業員、管理監督者、産業保健スタッフ、人事労務部門、衛生委員会。それぞれが何を担うのかを書き分けます。役割が決まっていないものは、書こうとした時点で見つかります。
問題点の把握と、メンタルヘルスケアの実施
何をもって職場の状況を把握するのかを書きます。ストレスチェックの集団分析、日常の職場管理、従業員からの意見聴取。把握したあと何をするかまで、ここに書きます。
人材の確保と、事業場外資源の活用
社内に誰がいて、いない部分をどこに頼むのか。産業保健総合支援センターや医療機関など、外部にはそれぞれ担う範囲が決まっています。どこに何を頼むのかを先に決めておきます。
労働者の健康情報の保護
誰がどの情報を見るのかを書きます。ストレスチェックの結果、面接指導の結果、集団分析。共有する範囲を決めずに進めると、あとで必ず揉めます。7つのうち、いちばん書き漏らされる項目です。
実施状況の評価と、計画の見直し
つくって終わりにしないための項目です。いつ、何を見て、誰が見直すのか。前年に決めたことがどうなったかを確認する場を、ここで決めておきます。
その他必要な措置
職場復帰の支援、ハラスメントへの対応など、その会社の事情で要るものを書きます。他社のひな形には出てこない部分なので、ここに社内の実態が出ます。
指針は、ストレスチェック制度をこの計画のなかに位置づけることが重要だとしています。実施しているなら、その位置づけを計画に書きます。ここが結びついていないと、ストレスチェックが年に一度の単発の検査のまま残ります。
実際の書きぶりは、厚生労働省のパンフレットに例が載っています。心の健康づくり計画とストレスチェック実施計画をひとつにまとめた形で、活動方針から推進体制、個人情報の扱い、長期目標と年次目標まで通しで読めます。自社で書き起こす前に、一度この分量と粒度を見ておくと迷いません。
どうつくるか
ゼロから書き起こすものではありません。すでに動いているものを並べて、抜けているところを決める。順番はこうなります。
STEP 01
いまあるものを並べる
健康診断の事後措置、ストレスチェック、相談の受け先、復職のときの手順。動いているものを先に書き出す。
STEP 02
誰が担っているかを書く
従業員、管理監督者、産業保健スタッフ、人事労務部門、衛生委員会。担い手が決まっていないものは、この時点で見つかる。
STEP 03
抜けているところから一つ選ぶ
相談の受け先がない、復職の手順がない、研修をしていない。全部は埋めない。今年やる一つか二つを決める。
STEP 04
健康情報の扱いを書く
誰がどの情報を見るのか。ストレスチェックの結果、面接指導の結果、集団分析。範囲を書いてから運用に入る。
STEP 05
衛生委員会で調査審議する
規則の付議事項にあたる。議事録に残す。委員会を設けていない事業場では、関係する従業員の意見を聴く機会を設ける。
STEP 06
従業員に周知する
計画は社内に知らせて意味を持つ。相談の受け先と、結果を誰が見るのかは、特にはっきり伝える。
毎年
実施状況を見て、見直す
評価と見直しは計画の項目そのもの。前年に決めた一つがどうなったかを確認してから、次を決める。
計画は、分量ではなく、決まっていることが書かれているかです。ひな形を埋めることが目的になると、社内に無い体制が書かれた計画ができあがります。
つくると、何が変わるか
いちばん変わるのは、そのたびに考えなくてよくなることです。相談が来たときにどこにつなぐか、復職の話が出たときに誰が窓口になるか。決めていないと、起きるたびにご担当者が判断することになります。判断の質がその日の忙しさに左右されるのは、仕組みの問題です。
二つ目は、ストレスチェックの位置づけがはっきりすることです。集団分析を何に使うのか、職場環境の改善にどうつなぐのか。計画に書いてあれば、実施したあとが単発で終わりません。
三つ目は、担当者が替わっても残ることです。産業保健は属人化しやすく、引き継ぎで最初に抜けるのが「なぜそうしているのか」の部分です。計画は、その理由を書いておく場所になります。
健康経営に取り組んでいる会社では、方針を明文化して社内に周知しているか、体制が整っているかを問われる場面があります。この計画は、そこでも土台になります。
最初の一歩
人事・総務のご担当者と最初にするのは、STEP 01 の棚卸しです。いま何が動いていて、誰が担っているのか。これを1枚にすると、書けるところと決まっていないところが分かれます。
当事務所は、この棚卸しから衛生委員会に出す資料の形まで、産業保健師としてご一緒します。計画そのものを代わりに書くのではなく、社内で運用できる形に落とすところを担います。
業務の範囲
この記事は、厚生労働省の指針とパンフレットにもとづいています。指針の本文も、上のリンク先のパンフレットに収められています。
「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。健康経営優良法人認定制度は経済産業省が制度を設計し、日本健康会議が認定を行うもので、当事務所は認定機関ではありません。